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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)2412号 判決

控訴人 東京芝浦電気株式会社

右代表者代表取締役 土光敏夫

右訴訟代理人弁護士 鎌田英次

同 渡辺修

同 竹内桃太郎

被控訴人 旧姓上 幡野富枝

右訴訟代理人弁護士 根本孔衛

同 川又昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否≪省略≫

理由

一  控訴人(以下、控訴会社ともいう)が、電気機械器具、計量器医療器具等の製造、化学金属工業等を目的とする会社であること、被控訴人が、昭和三六年三月新潟県佐渡郡赤泊村立赤泊中学校を卒業後控訴人により臨時従業員として採用され、同月二八日控訴人との間において雇傭期間二か月、賃金日給計算により毎月二五日一括支払うこと等を内容とする雇傭契約(以下、これを本件雇傭契約という)を締結し、同日から控訴会社トランジスター工場(神奈川県川崎市小向東芝町一番地所在)製造部第二製造課に勤務したこと、本件雇傭契約は、その後二か月ごとに更新され、被控訴人において臨時従業員の名目のもとに継続して右工場に勤務し、その間右第二製造課から同部第七製造課を経て同部第三製造課に勤務し、モーターライズドフローベ等の作業に従事してきたこと、そうして、右更新にもとづく契約の雇傭期間が昭和四一年一一月二七日限りとなっていたところ、同月二四日控訴人が被控訴人に対し、被控訴人において、臨時従業員登用制度(昭和三九年改訂後のもの)による登用試験に不合格となったことを理由として、期間を昭和四二年六月末日限りとする労働契約を締結し、その期間の満了をもって被控訴人との雇傭関係を終了させることとする旨を申し入れ、これにもとづき控訴人、被控訴人間において同月二八日、雇傭期間は同日から昭和四二年六月三〇日まで、賃金その他の労働条件は就業規則による、右雇傭期間を超えては新たに労働契約を締結することはないという趣旨の契約が締結されたこと、控訴人が、右期間の末日である昭和四二年六月三〇日限り被控訴人との雇傭契約は終了したものとして、同年七月一日以後被控訴人の就労を拒否し、賃金の支払をしないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  本件雇傭契約は、前記のようにその契約締結の当初前記短期間の定めのあったものであるが、これがその契約の更新により被控訴人主張のように期間の定めなき雇傭契約となったものとみるべきか、控訴人主張のように右契約の更新は、実質的にも右短期の雇傭契約が繰り返して締結されたものであって、被控訴人との雇傭契約の臨時性ないし暫定的性格は、依然として失われていないとみるべきか、につき判断する。

(一)  ≪証拠省略≫をあわせれば、控訴人は被控訴人との本件雇傭契約締結後その雇傭期間満了のつど(ただし正確に右期間満了時までになされたか否かはともかくとして)被控訴人から乙第一号証の一の労働契約書と同様の、雇傭期間を二か月と定める労働契約書を差し入れさせてきたこと、かような労働契約書の差入れは、被控訴人以外のその他の臨時従業員に対しても同じであって、これと同様の取扱いをしていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうして、右事実によれば、右連続する労働契約書の差し入れにより、雇傭期間を二か月とする労働契約が、前の雇傭契約の期間満了時に個別的に締結され、その各契約に定められた雇傭期間の有期性は失われないかのごとき観を呈するのであるけれども、これによる雇傭契約の短期有期性の有無の判定は、右事実のみによるべきでなく、その雇傭の実情に即して考察しなければならないから、進んでこの点につき検討することとする。

(二)1  控訴会社における臨時従業員の雇傭状況と就労の実情について

≪証拠省略≫をあわせれば、控訴会社の工場従業員は、中学若しくは高校の新規卒業者中から選考により定時に採用された正規従業員、定時採用以外に随時に採用されるものとする臨時従業員および「その他の者」(これには嘱託、臨時のアルバイト、パートタイマーなどがある)に分れ、このうち正規従業員の採用についての選考は中学卒業者に対しては学科(国語、算数)、クレペリンテスト、面接、身体検査であるが、臨時従業員のそれは面接と身体検査のみであった、しかして工場の基幹作業は、正規従業員および臨時従業員がこれに従事し(臨時従業員中控訴会社において、この種の作業に従事する者は「基幹臨時工」と呼称されていた。以下、これを基幹臨時工という)、包装、運搬、清掃等の附随作業は、臨時従業員中、基幹作業に従事しない者および前記の「その他の者」が担当するものとされていたこと、控訴会社の臨時従業員は、昭和二三、四年ころから雇傭され、昭和二五年朝鮮動乱のぼっ発を境として国内の景気の上昇および生産の向上にともなう労働力の需要の増大と将来の景気変動に対処する手段としてその雇傭が漸次増加し、控訴会社の総雇傭量に対する臨時従業員の占める割合は、昭和三一年三月八パーセントであったのに、昭和三四年三月から昭和三七年三月にわたっては三〇パーセントを下らなかったこと、控訴会社の前記トランジスター工場は、昭和三二年半導体製品の製造専門工場として発足したものであるが、同工場も控訴会社の臨時従業員の雇傭に関する右の例に洩れず、殊に同工場においては特殊事情として、発足当初から半導体が真空管に代る新製品であり、これに対する市場の需要並びにこれに対応する生産の不安定を考慮して工場作業を相当大幅に臨時従業員に依存する必要があるものとし、昭和三三年七月には正規従業員五九三名、臨時従業員四一九名、昭和三五年三月には前者一六〇三名、後者一二三七名、昭和三六年三月には前者一七八三名、後者八八〇名をそれぞれ採用し、それ以後も昭和三九年三月(後記臨時従業員登用制度の改訂の実施直前)に至るまで正規従業員のほぼ半数に達する人員が臨時従業員として採用されていたこと、ところが、昭和三九年はじめころ控訴会社および右工場において半導体製品の需給関係が安定したとの見とおしのもとに基幹作業を原則として正規従業員に依存することとし、これに伴う所要の正規従業員を順次増員し、反面臨時従業員の正規従業員に対する雇傭割合を縮少し、それに応じて臨時従業員の雇傭の絶対数も漸次減少せしめるとの方針を樹立し、同年四月以後同工場において解雇、任意退職、新規採用の取りやめ等により臨時従業員の雇傭を漸減せしめたこと、この間臨時従業員は、基幹作業に従事する者である限り正規従業員と同一職場において同一の作業に従事し、両者の労働ないし作業内容は、その実質においてなんらの相違が存しなかったこと、以上の事実が認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

そうして、右認定事実によれば、控訴会社および右工場において基幹臨時工を採用、雇傭したのは、主として景気および生産の需給の変動に対応して雇傭量を調整する目的のもとになされたものであり、仕事の性格が一時的であるとか、労働力の一時的不足を補う等のためにする意味に乏しいこと、しかも実際には、多少の景気および生産の変動にもかかわらず、昭和三九年に至り控訴会社において前記意図のもとに臨時従業員の雇傭を抑制するまで、その雇傭量が増加若しくはほぼ一定していることが認められる。

2  臨時従業員の正規従業員への登用制度について

≪証拠省略≫をあわせれば、控訴会社は、従来臨時従業員中、継続就労一か年に達した者につきあらためて選考(学科並びに実技テスト、勤労成績評定、面接等)により一定の登用枠の範囲内においてこれを正規従業員として採用するものとし、その選考に洩れた者については回数を問わず更に選考を受けしめていたこと、ところが昭和三九年はじめころ臨時従業員の雇傭の減少の方針に即応して、右登用制度を改訂したところ、右改訂後の措置によれば、「(一)臨時従業員中、継続就労四か月に達した者につき登用選考を実施することとし、登用枠を設けない。(二)選考の結果適格と認められた者は、継続就労満六か月に達したときから原則として一か月以内に正規従業員に登用する。(三)選考の結果不適格と判定された者は、契約期間満了時をもって傭止めとする。ただし、本人が継続雇傭を希望し、業務上支障がないと認められる場合は登用対象としない別扱いの臨時従業員として雇傭することができる。」旨等が定められたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうして、右事実によれば、控訴会社においては臨時従業員を正規従業員に登用する道を設けていたものであるところ、右登用制度の改訂の前後を通じ、その選考を受ける資格者として、一定期間の継続就労を前提とするものであることが明らかであり、そのことの反面、臨時従業員、殊に基幹臨時工については、本人の希望その他特段の事由のない限り、もともと当初の雇傭契約は契約に定めた二か月という短期の期間満了と同時に当然雇傭の終了することを予定していたものでないと認めるほかはない。

3  被控訴人の採用時から前掲昭和四一年一一月二八日労働契約締結に至るまでの被控訴人の雇傭および就労状況について

前記1および2認定事実に≪証拠省略≫をあわせれば、被控訴人は、被控訴人と同時に臨時従業員として採用された者とともにはじめて前記昭和三六年三月二八日控訴会社の前記工場に出頭した際、工場の係員から「臨時従業員として採用されたのであるが、一年後に本工登用試験もある、将来にわたり継続して働いてもらいたい。」という趣旨の訓示を受け将来にわたり継続就労する意図のもとに右工場の作業に従事したこと、被控訴人は前記のように右工場製造部第二製造課、第七製造課、第三製造課に順次配属されたところ、右各職場において正規従業員の中に組込まれて、これと同様に、トランジスター製作の工程のひとつであるアローイング、ベレット、モーターライズフローベと呼称される作業(いずれも基幹作業に該当することは、上掲≪証拠省略≫に徴して明らかである)に従事していたこと、控訴会社の実施する登用選考には、被控訴人において昭和三七年六月、昭和三八年九月、昭和三九年四月にそれぞれ申出をして選考を受けたが、いずれも不適格との判定を受けたところ、控訴会社において登用制度の改訂により昭和三九年度以後右選考は、登用対象者一名につき一回に限るものとしたため右最終の選考にもとづく判定のあったとき以後被控訴人を登用対象としない別扱いの臨時従業員として処遇していたこと、そうして、被控訴人は、そのとき以後かような処遇のもとに右掲記の基幹作業に就労していたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

(三)  右掲記の1ないし3認定事実をあわせれば、被控訴人は、前記工場における基幹臨時工として、工場生産を支える労働力の主たるにない手の一員に組み込まれていたことが明らかである。そうして、かような諸事実に、控訴人が昭和四一年一一月二四日被控訴人に対し前記一掲記の申入れをするに至るまで契約面上は反覆継続して二か月ごとに契約を更新しながら約五年九か月を経過していることの明らかな事実をあわせれば、控訴会社において生産規模の著しい縮少等の特段の事情の生じない限り被控訴人を継続して雇傭する意思があり、その意思のもとに右のように長期にわたり被控訴人の雇傭を継続したものと認めるのが相当であり、被控訴人においても継続雇傭を希望しその意思で就労していたことが明らかである。そして、前記のように控訴人において被控訴人から前記短期の労働契約書を差し入れさせたのは、右のような特段の事情の生じた場合に臨時従業員である被控訴人に対し解雇の途に出る措置を確保するためのものであるというべく、(このような特別な事由は正規従業員に対する解雇事由としても妥当するであろう)これら諸般の事実にかんがみるときは、臨時従業員はその採用にあたり正規従業員に対する選考に比して簡易に行われるが、一定期間経過後には正規従業員への登用の途を開いている点で、少くともその期間の当初においては雇傭の臨時性、暫定性をもつと同時に、長期の雇傭に耐えるべき従業員たるの適性を判別するための試用の意味をも帯有するものというべきではあるが、少くとも当初の期間が逐次更新され、従業員としての適性を判別しうるための一定期間、本件では正規従業員への登用資格を取得する一年の期間を経過したころには右当事者間において、労働契約の形式面はともかくとして、期間の定めのない雇傭契約が成立したものであると認めるのが相当である。≪証拠判断省略≫

三  昭和四二年六月三〇日を雇傭期限とする労働契約について

控訴人、被控訴人間において、昭和四一年一一月二八日、雇傭期間は同日から昭和四二年六月三〇日まで、賃金その他の労働条件は、就業規則による、右雇傭期間を超えては新たに労働契約を締結することはない、という趣旨の契約が締結されたことは、前記のとおりであるが、被控訴人は、右契約は、民法第九三条但書により無効である旨主張するので、判断する。

(一)  前段(二)1および2掲記の各認定事実に、≪証拠省略≫をあわせれば、控訴会社の前記工場において昭和三九年四月以後臨時従業員の雇傭を漸減せしめることとし、これにともない登用制度改訂の措置をとり、同年度以後実施した登用選考に不適格の判定を受けた臨時従業員につき再度の登用選考を認めず、登用対象としない別扱いの臨時従業員として処遇していたものであったところ、控訴会社は、昭和四二年四月以後右別扱いの臨時従業員の存在を全面的に解消することとしたこと、そうして、被控訴人につき更新された労働契約の契約書上の雇傭期間が昭和四一年一一月二七日までとなっていたので、控訴会社は、同月二四日勤労課長西岡勝名義をもって被控訴人(同人のほか、同様に右別扱いの臨時従業員として雇傭されていた三名の者も同時にその対象とした)に対し乙第二号証の文書をもって、前記一掲記の申入れをし、同月二六日第三製造課の組長斉藤槇次郎を通じて上掲のように昭和四二年六月三〇日までを雇傭期間とする等の記載のある労働契約書(乙第一号証の二)に被控訴人の署名、押印を得、被控訴人から交付を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  ところで、≪証拠省略≫をあわせれば、被控訴人は、右乙第二号証の申入書を第三製造課長代理三科から受領した後、熟慮のすえ同月二六日までの間に前記斉藤組長に対し右申入書は受領できないものであるから返戻する旨を申し入れ、これを返そうとしたこと、同月二六日被控訴人が乙第一号証の二の労働契約書に署名、押印するに先きだち、被控訴人において、前記斉藤組長に対し「これ以外に契約書はないのですか」という趣旨を述べて、同組長にその旨問いただし、「ない」ということであったので乙第一号証の二の契約書に署名、押印したこと、昭和四二年六月はじめころ前記西岡勤労課長が、被控訴人につき控訴会社の関連会社である東京真空管(従業員約一、八〇〇名を擁する。)に就職のあっ旋をしようと申し出たところ、被控訴人は、他に就職するつもりはない旨申し述べて右就職のあっ旋を拒絶したこと、乙第一号証の二の契約書による雇傭期間の最終日である同月三〇日第三製造課長の川西が被控訴人に対し同日限り雇傭が終了する旨を告げ、賃金、解雇予告手当相当額の金員の受領を求めたが、被控訴人が、やめる意思はない旨述べて右金員の受領を拒絶し、ついで翌七月一日被控訴人において右工場に出勤しようとしたところ勤労課員らにより出勤を阻止されたこと、等の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

しかして控訴人が前記登用制度を全面的に改訂し、さらに別扱いの臨時従業員を解消することとするについては労働組合の意向は徴したが、臨時従業員は組合員ではなく、臨時従業員の側にはなんらはかることなく、会社側の措置として一方的に施行しようとしたものであることは弁論の全趣旨から明らかである。

かような一連の事実に、被控訴人が、前記改訂後の登用選考に合格せず、以後控訴会社から別扱いの臨時従業員という処遇を受けながら、依然として従前どおり就労を継続していた事実をあわせ考えれば、控訴会社から前記申入れのあった当時被控訴人において右職場から離脱する意思がなく、あくまでも従前のとおり継続して就労しようとしていたものであって、乙第二号証の申入書を返却しようとした行為は、そのあらわれとみるべきであり、従って、被控訴人が乙第一号証の二の労働契約書に署名、押印したのは、右契約書記載の条項中、雇傭期間に関する部分およびその雇傭期間の末日である昭和四六年六月三〇日を超えて新たに労働契約を締結することはない旨の条項に真実合意したことによるものではなく、少くとも被控訴人の真意はこれよりさきに提出していた従来の様式による労働契約書上は、雇傭期間が昭和四一年一一月二八日から二か月となっていたのに、もはや従来の様式の契約書はないといわれたため、やむなくその期間を超えて就労を継続するための形式をととのえる便法としてこれに署名、押印するというにあったものと認めるのが相当である。

かようなしだいであるから、右労働契約書中、右掲記の条項についての被控訴人の意思表示に関する部分はその表示された意味は前認定の期間の定めのない雇傭契約において、これを前記の期間の定めのある雇傭契約に変更し、あるいは昭和四六年六月三〇日限り合意解約するものと解されるけれども、右意思表示は表意者である被控訴人においてその真意でないことを知ってした意思表示であることが明らかであり、かつ前記のような事情に照せば右意思表示を受けた前記斉藤組長および西岡勤労課長(西岡が被控訴人の右意思表示を受けたことは、原審における同人の証言によりこれを認めることができる)において、たとえ明確に被控訴人の真意を知らなかったとしても、控訴会社の意図を実現する直接の担当者であるという自己の立場にあって右事態を見れば、会社側の右意図がそのまま被控訴人に容認されたものでなく、被控訴人の真意は別にあることの消息は容易に知ることができたはずであるといわなければならない。そうして、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、少くとも西岡勤労課長を代理人として被控訴人に対し折衝し、被控訴人から右意思表示を受領したと認めることができるから、控訴人は、少くとも民法第九三条但書にいう「表意者の真意を知ることを得べかりしとき」に該当し、右労働契約書中、被控訴人の前記意思表示に関する部分は無効のものといわなければならない。

四  昭和四一年一一月二四日の申入れについて

控訴人が同日前記一掲記のように被控訴人に対し昭和四二年六月末日限りで被控訴人との雇傭契約を終了する旨の申入れをしたのであったが、乙第二号証に徴すれば、右申入れは、前記三掲記の労働契約の締結を予定して、控訴人において準備的にこれを被控訴人に申し入れたものと認められるところ、同時に右申入れには右同日をもって被控訴人を解雇(雇止め)する旨の意思表示を包含するものと解する余地があるから、その意思表示の効力につき判断する。

控訴人、被控訴人間において、右申入れのあるまでに、期間の定めのない雇傭契約が成立したと認めるべきことは、前記二において認定したとおりであるところ、右乙第二号証によれば、右申入れは、被控訴人において、控訴人が登用対象としない臨時従業員であり、その処遇は、過渡的措置であることを理由とするものであることがうかがえる。そうして、甲第一三号証の臨時従業員就業規則が被控訴人につき適用のあることが明らかなところ(但し後記の点を除く)、右理由は、別紙掲記のとおりの同就業規則所定(第八条)の解雇事由のいずれにも該当しない(別紙3の「契約期間が満了したとき」をもって被控訴人に対する解雇事由とすることのできないことは、被控訴人との雇傭契約が前記説示のとおり期間の定めのない雇傭契約であることに照らして明白である。すなわち右規則は期間の点に関する限りは本件のように期間の定めのないものとなった臨時従業員には適用の余地がないものというべきである)のみならず、その他に控訴人において被控訴人が右規則に定めるいずれかの解雇事由に該当することはその主張しないところである。被控訴人が控訴人の行った登用の選考に合格しなかったとしても、そのことは控訴会社の欲する正規従業員たるの適格がないと判定されたというだけであって、前記の時期にいたって被控訴人が従前どおりの従業員たるの適格すらもないことを意味するものでないことはいうまでもない。また前記改訂登用制度における「業務上支障がないと認められる場合」に当らないことについても控訴人から主張立証がないところである。従って右解雇については相当な事由があるものとすることができないから、結局控訴人の被控訴人に対する右申入れをもってした解雇の意思表示は、権利の濫用として無効なものといわなければならない。

五  従って、被控訴人は、控訴人との雇傭契約にもとづき引き続き控訴人の従業員としての地位を有するものというべきところ、控訴人が右昭和四二年七月一日以降被控訴人に対し就労の提供をしていることは弁論の全趣旨から明らかであるのに対し、控訴人がその受領を拒んでいることは前認定のとおりであるから、控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人において未だ支払を受けていないことの明らかな昭和四二年七月一日から、控訴人が被控訴人の就労を認めるに至るまで、毎月二五日限り一か月分の賃金を支払うべき義務がある。

そうして、右賃金は、同年六月末日における被控訴人の平均賃金によるものと解すべきところ、≪証拠省略≫によれば、右平均賃金が一か月につき金二万二、三二九円(円未満切捨)であると認められるから、控訴人は、右期間中右支払期間に同金員を被控訴人に支払わなければならない。

六  以上のとおりであって、被控訴人の本件請求は、右の限度で理由があり、これと同趣旨の原判決は、相当であって、本件控訴は理由がない。よって、民事訴訟法三八四条に従い、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 間中彦次 園部逸夫)

〈以下省略〉

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